社団法人鹿児島県臨床工学技士会

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人工心肺業務 (体外循環)について

開心術を目的とした人工心肺の研究は、Gibbon博士により始められました。
1930年代には、フィルム型人工肺とメタルフィンガーポンプの組み合わせによる人工心肺装置を用い、猫において3時間50分の体外循環に成功したと言われている。
第二次世界大戦中は、人工心肺の研究も中止されましたが、終戦とともに研究が世界各地において行われるようになりました。Gibbon博士は、1953年の5月にフィルム型人工肺とローラーポンプの使用により18歳の心房中隔欠損の閉鎖術に世界で初めて成功した症例です。それから、世界各地で人工肺や、ポンプが改良開発され現代に至っています。

体外循環とは(extracorporeal circulation)

ヒトの体の中を循環する体循環(大循環)、心臓から出る血液を動脈と呼び、また心臓へ入る血液を静脈と呼びます。体外循環とは、人工的にポンプ等により体外へ血液を導き出し、血液の回路を通して血液の操作を行い、再び体内へ血液を戻す一連の動作を体外循環と呼びます。(人工心肺、血液透析、血漿交換等をいう)ここでは、人工心肺装置について説明します。

目 的
体外循環維持のため、全身臓器、組織への血液と酸素を供給します。
動脈血(酸素化血液)を体内に送入し、戻ってきた静脈血(二酸化炭素血)を排泄します。
動脈の送血により、血圧を維持します。
体温を調節します。
術野の出血血液を回収し術野の視野を良くします。
人工心肺装置:メインポンプ
図1.人工心肺装置:メインポンプ

人工心肺装置とは

  • 人工心肺装置AHM:(artificial heart-lung machine)
  • 心肺バイパスCPB:(cardio-pulmonary bypass)
  • 体外循環ECC:(extracorporeal circulation)

などと呼ばれています。
これは、心臓の手術や大血管の手術を行う際、無血視野の確保と心臓切開に伴う出血を観察する目的で考えられ、手術中の心臓と肺をバイパスし、人工的にポンプを使い人工肺により静脈血を酸素化し体内へ血液を再び還流します。手術によっては、体温を下げ(低体温)たり、常温で行う場合もあります。

人工心肺装置の構成

(1)ポンプ(ローラーポンプ)
ローラーポンプは、図2のようにローラーが回転しながら、チューブをしごき、血液に一定の流れを与える血液ポンプです。ローラーによって圧閉されたチューブが形状を元の形に復元するときの陰圧により血液を吸引する一連の動作にて血液を送り出します。
ローラーポンプの特性
  • ポンプの構造が簡単で操作し易い。
  • 回路の滅菌が容易です。
  • 血液成分の損傷が比較的少ない。
  • 血液駆出量は、チューブの内径と回転数にて決まり、回転数と流量は、直線的関係にあり、流量を容易に可変でます。
ローラーポンプ
図2.ローラーポンプ

この、ローラーポンプがヒトの心臓の役目となります。

(2)血液回路(送血回路、脱血回路、吸引回路、ベント回路、心筋保護回路)
  • 単純な構造で、取り扱いが容易なこと
  • 充填血液量が少ないこと
  • 血液損傷が少ないこと
  • 長時間の耐圧に耐えられること
  • デスポーサブルで安価
  • 滅菌が容易
(3)人工肺(oxygenator)
生体の静脈系より戻ってきた静脈血を酸素化し、かつ炭酸ガスを排泄する装置、血液を酸素化する方式によっては血液と酸素が直接接触するタイプと直接接触しない方式の2種類が存在します。
  • フィルム型人工肺:円板などの滑らかな物体の表面に血液を薄いフィルム状に広げこの部分で酸素化を行う方式であるが、取り扱いが煩雑なため現在では使用されていません。
  • 気泡型人工肺:血液と酸素が直接接触することにより、血液を酸素化する装置で静脈血の中へ酸素ガスを2〜7mmの小気泡として小孔を通して噴出させ、血液に酸素化を行います。
  • 膜型人工肺:薄い膜を介して血液と酸素が、ガス交換が行われる方式で人工の透過性膜を介して、血液の酸素化を行った方が赤血球の破壊、蛋白変性、気泡の発生などの傷害が起こりにくいため最近では、この型の人工肺が主流となっています。
(4)貯血槽
右心房より脱血した静脈血を貯めるタンクで、最近は人工肺と一体型になっています。また、吸引血を一時的に貯める心腔内貯血槽もあります。いずれも、フィルターが組み込まれています。
(5)送血フィルター
送血(動脈血)回路に組み込まれ人工心肺回路に混入した異物や、凝血、組織片、脂肪の除去を目的とするフィルターで、微少空気等もトラップされます。
(6)熱交換器
体外循環中、体温を下げる際に熱交換器に冷水を流し体温を下げ、また復温する時37.0℃くらいのお湯を流し血液を加温し体温を元に戻す装置で最近は人工肺とセットになっている物が多いです。直接血液と触れる事はありません。
(7)冷温水槽
熱交換器に流す冷水と温水の温度を制御し、ポンプにて灌流し、温度を調節する装置で、冷温槽と温水槽の2槽式が多い。5〜42℃の範囲で調整できます。
(8)ヘモコンセントレーター(血液濃縮器)

体外循環中は、血液を希釈して循環し、術野からの吸引や麻酔からの輸液、心筋保護液などの多量の水分により、血液が薄まらないように血液のヘマトクリット値を一定に保つ為の装置です。

回路構成
図3.回路構成
(9)心筋保護装置

送血を停止し大動脈を遮断する。冠動脈に心筋保護液を注入し、一時的に心停止を停止させる。
これは、心筋を守るため、4〜10℃に冷やしたGIK(グルコース、カリウムインシュリン)クリスタロイド液をポンプにて送液し術前に決められた量を圧を見ながら送る。30分起きに注入する。また、血液を混入したblood GIKや、暖めたWorm blood GIKも最近行われている。

心筋保護装置
図4.心筋保護装置
吸引回路
手術野で出血した血液をポンプにて吸引し、貯血槽に引き込む。
ベント回路
心臓の左心室が過伸展にならない様に、吸引する。
吸引ポンプ
図5.吸引ポンプ

今回紹介した、回路構成等は、通常の回路構成であるが、手術によっては、特殊な回路構成となる場合もある。体外循環(人工心肺業務)に関しては、施設等によっても、多少異なる場合もあるので、他のホームページも参考にしていただきたい。また、詳しく知りたい方は、(人工心肺の操作や、手技)は、専門書等をご覧になっていただきたい。